これまで、企業が営んできたマーケティング活動は時代の変遷と技術の発展によって大きく変化してきました。マスマーケティングの終焉、デジタルマーケティングの台頭、それに伴う様々な技術の活用、これらは一種の予測可能なトレンドであったのに対し、近年我々の身に起きている変化は全くもって予測不能なものであり、新型コロナウイルスはマーケティング並びにビジネス全体において、不可逆な変化を起こしつつあります。
緊急事態宣言が発令された2020年4月7日(7都府県が先行、後16日に全国拡大)から半年近くが経過しようとしており、消費に対する行動やメディア接触など、マーケティングに重要な消費者行動はすでに大きく変化しています。本記事では、そうした現状を踏まえて新型コロナウイルスによってマーケティングはどのように変わったのかを整理していきたいと思います。
新型コロナウイルスで変化した消費者行動等
消費行動に大きな影響を与える要因として収入の変化が挙げられます。新型コロナウイルスが日本全土、世界中に感染拡大していく中で外出自粛要請が全国的に出されたことで、飲食店や小売店、旅行業などが大きな打撃を受けたことは周知の事実です。それに伴い収入が大きく変化した消費者が大幅に増えたことで、そもそもの消費に対する意欲が低下したことは決して無視できません。
サイバーエージェント株式会社がインターネット広告事業における「サイバーエージェント次世代生活研究所」において、ウィズコロナにおける日本人の消費意識とメディア行動の変化について全国3,094人を対象に意識調査※1を実施しました。その結果、新型コロナウイルス感染拡大の影響により収入が最も減少した年代は消費活動が活発な15~29歳であり、全体の41.7%が減少したと回答しています。
同調査でもう1つ着目すべきデータが、新型コロナウイルス感染拡大による自粛期間前、自粛期間中、それと自粛期間後のお金の使い方について尋ねたもので、全年代において「貯蓄」への比重が大幅に向上しています。新型コロナウイルスの影響により予測不能な新しい緊急事態に備えてお金を蓄えておこうという行動が顕著に拡大しています。
これらのデータは新型コロナウイルス感染拡大が徐々に進行し、緊急事態宣言が発令される前後にはある程度予測できた結果です。これに対し、まるで緊張の糸が切れたように消費行動が活発になった期間もあります。
三井住友カード株式会社は自社が保有するキャッシュレスデータを集計し、新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした消費行動の変化を株式会社顧客時間と共同で分析し、その結果を発表しました※2。それによると、2020年4月7日の緊急事態宣言が発令されてからクレジットカード決済金額は徐々に低下していき、5月25日の宣言解除を機に消費傾向が緩やかに回復していることが分かります。これはECモール・通販以外における消費行動で顕著に現れており、やはり実店舗における消費行動が消費者の購買意欲を満たすことに大きく寄与しているものと判断できます。
着目すべき各メデイアへの接触頻度の変化
デジタルマーケティング、オフラインマーケティング共に、マーケティング戦略を立案する上で参考にすべき指標が各メディアへの接触頻度であり、単純に考えれば接触頻度が高いメディア等に広告出向することでターゲットへのリーチを増やし、効果的な施策展開ができます。では、新型コロナウイルスの感染拡大によって各メディアへの接触頻度はどのように変化したのでしょうか?
株式会社オースタンスの調査・ビジネス推進組織の「趣味人倶楽部シニアコミュニティラボ」は株式会社博報堂のプロジェクトチーム「博報堂シニアビジネスフォース」でインターネットメディアへの接触動向を調査※3。その結果の中でアクティブシニア(インターネットを活用して趣味や交流を楽しんでいる60歳以上の方)のインターネット利用率の増加を報告しており、30.3%がインターネットを利用する時間が新型コロナウイルス感染拡大前と比較して増えたと回答しています。その接触機会はニュースを読むことだけに限らず、無料動画の視聴やSNSの利用、家族や友人とのコミュニケーションなどデジタル行動全体に波及しているようです。
株式会社ビデオリサーチが行ったテレビ視聴に関する調査結果※4からは、新型コロナウイルスの影響によってテレビ視聴率が確実に増加傾向にあることが分かります。緊急事態宣言が解かれてからしばらく経過したものの、外出自粛要請は依然として続き、自身の健康管理のために自ら外出自粛を実施する消費者が多数存在することから、テレビ視聴率は現在でも前年同比を上回っているものと考えられます。
マーケターがこれから取るべき行動とは
新型コロナウイルス感染拡大による影響により消費者行動が大きく変化し、その変化に応じて首尾よくマーケティング戦略を再構築しているマーケターも多いでしょう。そこで多くのマーケターは、接触回数が増えたメディアに対して予算を振り分けるといった選択を取られていることかと思います。
具体的な戦略を考える前に消費者に起こっている認識の変化について考える必要があるでしょう。例えばインターネットニュースサイトへの接触回数が増えたという行動の変化には、「外出自粛要請が続き暇になったから」「新型コロナウイルス感染拡大の状況を逐一チェックしたいから」などの認識の変化が生じ、それから行動の変化に現れているものと考えられます。そのため、単純にマーケティング予算をインターネット広告に集中するのではなく、「暇を持て余している消費者に対し、自社商品からどのような価値を提供できるか?」という、認識の変化からマーケティング戦略を考案することが重要だと言えます。
新型コロナウイルス感染拡大はマーケティングやビジネス全体の大きな変化をもたらし、ニューノーマル(新常態)を作り出そうとしています。しかしそれは、マイナス影響だけではないことに着目していきながら、マーケティング戦略の活路を見出していくことが大切です。まずは数あるデータから消費者行動の変化などをまとめ、そこから消費者の認識の変化に着目してみるのも新しいマーケティングの形ではないでしょうか。
※1 コロナ禍で、消費者の「オンラインショッピング」と「動画配信サービス」・「料理系アプリ」の需要が増加。 withコロナにおける日本人の消費意識とメディア行動の変化を調査
※2 コロナ影響下の消費行動レポート 第2弾~高まるデジタルシフトの重要性と応援消費に象徴される消費の価値観変化~
※3 新型コロナで、シニア8割がインターネットで情報収集。他デジタル行動も加速。趣味人倶楽部シニアコミュニティラボと博報堂シニアビジネスフォースが、1500名以上のアクティブシニアに共同調査実施。
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